天国と地獄
子供の頃、好きだったテレビで
いまだに記憶に残ってる話で
ぼくはまじめに生きている
顔は思い浮かんでいるというのに
名前が出てこない
また、死んでしまったかと
ぼくの頭の中では細胞がばたばたと倒れていく
今日は2つが倒れたようだ
頭の中をのぞくことはできないから
どれが死んでしまったのかと探りを入れることもできず
供養してあげることもできない
死んでしまったのではなくて
逃げ出したのではないかと思うこともあり
耳の穴からぽとりと落ちて足元を小走りに掛けていく細胞を想像してみたりする
夕方になってふと思い出した名前
逃げ出したのかと思ったら、もう戻ってきた
ぼくの頭の中のなにが気に食わないと問うてみると
少し眠っていただけだという
何もない小さな部屋に
ぼくは窓を取り付けた
陽射しの差し込んだ部屋に
無花果の木も嬉しそうだ
キミは窓をよじ登って入ってくる
入り口はこっちだよ、と言うと
いつも鍵がかかっているもの、と彼女
靴ぐらい脱いでくれよ
ようやく透明人間になれたというのに
どういうわけか影だけが残った
影だけが歩いてくると
やっぱり誰もが気味悪がって
今まで以上にぼくは目立った存在になる
向こうから影のない人が歩いてきた
彼も困っているようで
それならばと相談を持ちかけて
ぼくたちは寄り添って歩くようになった
もはや誰にも見向きもされず
行き交う人々の視線はすり抜けていく
ぼくはようやく透明になれた
ぼくはネオン管の中をぐるぐると回った
ときに、目の前はピンクになり
ときに、みどりとなり
あっという間にすぽっと音を立ててぼくは抜け出た
少し細長くなったぼくを見ても
だれも見向きもしない、だれもかれも何食わぬ顔で
ぼくは今通り抜けたメリークリスマスの文字を見上げて思う
熱心な祈りの信徒はぼくだけなのか