記憶の断片

できたばかりの大きなスーパーマーケット
おかんとあねきは買い物

マンションの前に路駐する車の中でぼくとおとんは待ちぼうけ

救急車のサイレンが近づいてくる
すぐそばで来てサイレンは鳴り止む

小さな子供を毛布にくるんで抱きかかえ
マンションの階段を母親は駆け降りてくる

毛布の間から力なく垂れ下がる小さな手と
取乱した母親の顔

夕飯の支度にとりかかる買い物帰り
皆がみな、立ち止まり、人だかり

少し色あせた記憶の中の映像に音声はない
無音の叫びと、無音のざわめきと

救急車のサイレンの音だけが
オレンジの夕焼けの中に遠のいていった

おとんは何かつぶやいたような、ぼくは何かつぶやいたような
声は音にはならなかった

きれいな風景と悲しい場面
たまに思い出すとぼくはさびしくなる

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