東京タワー リリー・フランキー

どうせ、お泪頂戴の話、そんなのにぼくはやられない

「東京で、一緒に住もうか?」、で本を閉じた
何かがどっときた

深夜のファミレス、フォークでぶっさしたソーセージ片手に
余裕こいて公衆の場で読む本ではなかった

いそいそと店を出て、自宅で続きを読む
こんなありきたりな話、卑怯だリリー・フランキー
うるうるしながら読み終えた

合格発表の日、東京から遠く離れた自宅で待つオカン
「おめでとう、はよ帰ってきーや」
第一志望の国立の発表はまだ先だというのに、電話口でオカンは泣いた
オカンにとって大学なんてどこでもいいのだ
金のかかる東京の私立大学にぼくは入学した
私立中学、私立高校、そして私立大学

「あんたに今までかけたお金、そのうち返してもらうで」と書類の束を大事にため込んでいる

ぼくの家がどれほど裕福だったのか、貧乏だったのか

近所のおばちゃん仲間と楽しそうに通っていたお茶にお花と、習い事はいつしかやめて
オカンはパートに出るようになる

「オトンが来ては、売上を根こそぎ持っていく」
しばらくぶりに顔を出したばぁちゃんの小料理屋
客のいないカウンター
どんな店にもひけをとらなかったばぁちゃんの料理は、まずかった

オカンは脳梗塞でたおれるまでパートに出つづけ、ばぁちゃんは味がわからなくなっても料理を作りつづけた

オトンとオカンとばぁちゃんがせっせと働きぼくは社会に出た

「オトンに買い物でも連れていってもらいいや」というと
「車椅子は人と目線が違うからおもしろないねん」とオカン

ぼくが訪ねていくと「そんな顔じゃたっけ?」と首をかしげる
施設の小さな部屋で静かに暮らす、ばぁちゃん

母親と妻を背負うオトンに手を貸すこともせず、遠く離れた東京でぼくは好き勝手に生きている

いずれやってくるそのときに、ぼくを育てた人々を幸せに送り出せるのかと
それでもまだまだ先のことと、のんきに毎日が過ぎていく

小説はあまりにもきれいで、ハッピーエンドなのだ

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