糸、切れたままだ

ぼくの育ったイニックレコーディングホステリー
毎日が寝不足で、夢の中なのか現実なのか、わけのわからない生活をしていた
寝起きを電話でおそわれると、たいてい寝ぼけている
アシスタントという職業はいつも強迫観念につきまとわれていて
電話の主は友達だというのにひたすら謝っていたりする

そんなぼくにも後輩がいた
なにかを教えたわけでもなく、今思えば、言葉はよくないけれども、戦友みたいなもので

もう音楽業界なんてと思ったときに、ぼくは音楽業界のすみっこに移動し
小さなスタジオに身を置いた
後輩はそんな音楽業界を抜け出して、上を目指してアメリカに渡った

少ないながらも、メールのやり取りは続いていた

マスタリングをアメリカのエンジニアにやってもらいたくて
彼のつてに頼ろうとメールをした

ぼくは気のしれた人とお堅い仕事の話をするのが苦手だ
冗談まじえてと、軽い気持ち
「そろそろ禿げてきたんでないかい」と打ってみた

冷たい返信とともに、つながっていた糸はぷっつりと切れた
親しき仲にも礼儀ありか、とぼくはぼんやり考えた
ときどき、彼のことを思い出す

今日、彼が日本にもどってきているという知らせが回ってきた
当時の仲間が集まる
切れた糸、つなぎ直せるか

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