ばば様を訪ねて奈良県学園前
視覚の記憶はどこえやら
すっかりすっ飛んでしまったよう
1文字1文字はっきりと名前を告げる
埃をかぶった記憶の棚からぼくの名前を取り出す
「おあがり」とぼくを招き入れる
それでもなお、顔が違うと独り言
1月1日が誕生日、めでたい人、93才をかぞえる
はなしは数年前から変わらない
朝起きて、水を飲み、少々離れた喫茶店まで散歩する
黒い髪、綺麗にそろった歯
医者が驚くほど健康なのよ
ぼくのシャツの裾が気になりはじめる
シャツはズボンの中へ
そして古いアルバムをめくる
「あんた、写っとらへんな」
小さなぼくは、ばば様の隣にちゃんといる
今のぼくは、そこにはいない
大阪に連れて行けと言い出す
ばば様の息子、父様の弟、ぼくのおじ
親族ども、ばば様をほったらかしにするでない