ぼくが天国にいた頃は
天国にもいやなやつはやっぱりいるもので
そいつは自慢しか口にしない
天国だというのに、見渡す限り真っ白な景色の中に
ぼくとそいつの他、影を落とすものは無くて
仕方がないので、眠くなるまでその自慢話にききいってやる
ぼくは話すこともなくて
1日に1度、決まった時間に神様はやってくる
昼も夜も無い天国でも時間はめぐっていて
決まった時間に目覚めて、決まった時間に眠くなる、それを1日とぼくたちは数える
神様はぼくたちに微笑む
大学病院の回診のように、たくさんの顔の無い天使を引き連れて
一人の天使がすーっとでてきて、ぼくたちにひとつづつ緑色の小さな豆を手渡す
そしてまたすーっとたくさんの天使のなかにまぎれてしまう
いつも豆をくれるのは同じ天使なのか、みんな顔が無いのでまるで区別がつかない
この豆を食べていればぼくたちはずっと元気でいられるようで
神様が雲にまぎれて見えなくなると、ぼくたちはそれぞれに飲み込む
おそろいの真っ白な服にはポケットが無くて
ふわふわした雲の上では豆はすぐにまぎれてしまう
仕方なしに口にする
そしてまたやつの自慢話がはじまる
その日のやつの自慢はさえなくて
ぼくは眠りについた
目覚めるとやつの姿は無くて
やつの寝姿を型どった雲が隣に残る
神様はいつものようにやってきて、今日はぼくだけに微笑む
顔の無い天使がすーっと出てきて、足元から拾い上げた豆をぼくに手渡した
そしてまた行列の中にすーっと消えていく
一瞬現れた表情は微笑んだのか、にらみつけたのか
ぼくは豆を地上に捨ててみた