ぼくの子供の頃は
たとえば、時計を分解すると、ばらばらと部品がこぼれてきて
構造はとても複雑で、仕組みはいたって単純
ぼく自身がとても単純に生きることができた
今はとてもシンプルな時代
それなのに、携帯電話はかかせない
ノートパソコンを抱えて歩く
家の中には電源コードと配線が絡み合って
何のためのリモコンだか、テレビ、テレビとリモコンを探すのに一苦労
とにかくワイヤレス
無線LANとはなんと便利なものか
いたるところに電波がとびかって
ぼくも負けじと手に入れたばかりの無線LAN
調子がおかしいと分解してみたところで
いたってシンプルな構造に、理解をはるかに超えてしまった仕組み
時計からばらばらとこぼれてきた歯車が懐かしく
隣にすわるおっちゃんは
声ともならぬ奇妙な音をはきだして
肩からかけたままのかばんの角度が気になるらしく
いっこうに、おちつかない
「ホエ、ホエ」と声ともならぬ声
ねじの1本取れてしまったおじさんに
ぼくは愛着をわかせたものだけれども
メモリチップが暴走を始めたかのような挙動不審
ぼくはおちおち食事もできぬまま
まずい飯が、輪をかけてまずく感じられて
蜘蛛の巣のように張り巡らされた無線の罠に
いたるところでもがき苦しむ