ばぁさま

もう96歳だというばぁさまは
年賀状を出しに行くところで、部屋からよぼよぼと出てきた
老人ホームといったって、ソファーのあるロビーがあったりして
飯は勝手に出てくるわ、なかなかいい所で
嫁に気を使って住まわせてもらうより、よっぽど気楽なのだろう
虫歯は1本もなくて、髪の毛は真っ黒で
「白髪が生えよるよ、あんた」とぼくの白髪をあざとく見つけて、引っこ抜く
100歳は生きるぞ、この人と

それでも、歳は歳
達筆だったばぁさまも
年賀状に書いた文字はちゃんと届くのかと、さっぱり読めなくて

なじみの喫茶店があるらしく
正月は閉まってると言っても、コーヒを飲みに行くと聞かなくて
「車じゃからすぐじゃわい」と
こんなよぼよぼを車に乗っけて、ぽっくりいってしまいはしないかと
心配しながらも、何とか助手席に押し込むと、じっとしている

案の定、喫茶店は閉まっていて
仕方がないから、ばぁさまの行動領域、歩いていける範囲を超えて
ファミリーレストランというそれはもう見たこともないような
近代システムの中に連れ込んで

ドリンクバー
ぼくがコーヒーを運んでくると、不思議がる
砂糖、砂糖とうるさくて、どろどろになるくらいに入れて
じゅるじゅるといっきに飲み干して

何杯でもおかわり自由だということが伝わらない
さっき渡した小遣いを握り締めて、さっさと金を払いたがる
勘定は後も伝わらない

まだ注文したチョリソーもきてないというのに
ウエイトレスを呼び止めて勘定、勘定と
ぼくは、すいません、すいませんと
あっという間にファミレスを後にして、ファミレス滞在時間、最短記録

手のかかるばぁさまだと再び車に押し込んで
部屋に連れ戻す

「気ー付けて帰りや」とばぁさま
「はい」

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