安部公房という人は、どうやら夢を捕まえる名人だったようだ
ぼくだって何度か夢を捕まえたことはある
捕まえたというよりは、偶然、鉢合わせたようなもの
今年に入って、まだ夢に遭遇していない
毎晩、2つ、3つは徘徊しているはずなのに
夢の通り道があるはずなのに、形跡すら残さない
夢はあっという間に消えてなくなる
目覚し時計の音に驚いて、目を開いた瞬間
差し込む光に溶けて消える
今日こそ捕まえてやると、ぼくは目覚めた
一瞬、朝の冬の寒さに気をとられる
夢のいた方向さえもつかめなくなってしまった
やみくもに手を伸ばす
ぼくの小指と人差し指の間にひっかかった夢のかけら
綿菓子の切れ端
いったいなんだこれは
明日こそ捕まえる
ぼくは虫取り網を片手に眠りにつく
目指すは名人