毬藻

ある時、毬藻を飼っていた
名前はつけなかった
餌を与える必要もなかった

天気のよい日には
全身に小さな気泡をためて、水面に浮きあがった
それ以外は
水槽の底にじっと動かなかった

毎日、特に変化はなかった
毎日、毬藻を眺めて過ごした

べつだん、汚れたふうでもなかったけれど、ときに、水を替えた
新しい水にも、静かに水に沈んで、じっと動かなかった

目があるわけでもない、口があるわけでもない
泳ぐわけでもない

つまみあげて、落としてみた
ポチャリと音を立てて、静かに沈む
それを3度ほど繰り返す

3度目には、ぼくの身長の高さになっていた
少し、驚かせてみる

毬藻は水槽のへりにあたって2つに割れた
2つをくっつけて、そっと、水槽に沈めた

毬藻は、灰色になってしぼんだ
天気のよい日にも
あがってこなくなった

しばらくは、灰色の毬藻を眺めて過ごした
水は灰色に濁りはじめた

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