愛想のない対応をされて
そんなことに腹を立てていてもしょうがない
こっちだって愛想のない客
とりあえずマニュアルにそって言っておかなければと
けだるそうに、学生のバイト
仲間内なら彼の言葉もちゃんと響くだろうに
エプロンにはネームプレート、「松尾」
ふらっと立ち寄ることが身についてしまっただけの客
もっと近所にできてしまえば平気で店を乗り換える客に
いちいち名前を公表するのぼくにはかわからない
ただ、少しばかり彼に興味がわいた
ぼくだって、似たような性格だ
「松尾」と口にしてみる、驚くだろう
「松雄君だよね」はどうか、それもあやしい
「ぼくの名前と同じだよ」なら親しみもうまれそうだ
そんなことを考えながらお釣りを受け取って
無言で店を出る
ぼくも無言なら、松尾も無言だ
見渡せば、他人ばかりの世の中だ
ぼくの記憶にからみつぃた松尾という顔と名前は
奥歯にはさまったするめのようで気持ちが悪い