ばぁちゃんの頭の中

ばぁちゃんの家は愛媛県松山市にあった

毎朝、路面電車に乗って、ばぁちゃんと一緒に店に行く

店を開けて、ばぁちゃんと二人で掃除をする

一階のカウンターには酒樽が並び、二階には広い座敷が3つほどある

2階の廊下の突き当たりは薄暗く、鎧兜がガラスケースの中に腰をかけている

立ち上がると2Mの長身はガラスをたたき割って弓矢を握りしめ襲いかかる

ぼくは2階に上がることはできなくなった

12時をすぎる頃、厨房のおじさんたちがやってくる、しばらく時間をおいて

ねぇちゃんたちがやってくる

時間をもてあそぶねぇちゃんたちにとってぼくは暇つぶしの標的になる

夕方をすぎる頃、店は騒がしくなり

魚の頭が突き出した舟盛り、無数のとっくり、おちょこが2階に運ばれる

「たまちゃん、お呼び」という声を合図に、いつの間にやら和服に身を包んだ

ねぇちゃんたちは次々と2階へ消えていく

ばぁちゃんとぼくは帰路につく、道後温泉で一風呂浴びるのを忘れない

こうしてぼくの夏休みは終わる

ばぁちゃんは今、奈良県にある老人ホームにいる

ぱぱきちと同居しないのはままきちと折り合いが悪いからだ

正月に実家に帰省する折にぼくはばぁちゃんの小さな部屋を訪ねる

朝起きて、水を飲んで、散歩する

髪は黒々していて、虫歯は一本もない

ばぁちゃんは日常を語る

一通り話し終えると、しばらくの沈黙があり

朝起きて、水を飲んで、散歩する

と語り始める

ぼくは3度目の

虫歯は1本もないを聞いて

「そろそろ行くわ、また来年くるよ、元気でね」と立ち上がる

ばぁちゃんは独り言のようにつぶやく

「あの頃は楽しかったわい」

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