18歳の春、ぼくは東京にいて
新宿駅南口から甲州街道をまっすぐに歩いて
首都高速が見えてきたあたりでわき道にそれるとホテルはあって
その小さなビジネスホテルからぼくの東京は始まった
その半年前、東京ににやってきて、同じこのホテルに泊まり
ストップウォッチで時間を計る
新宿駅まで10分、中央線で国立駅まで40分、一橋大学まで5分
時計台の写真を撮った
その写真を肌身離さず半年間、いよいよ本番
いまさらあがいたところで始まらないと、ホテルでテレビを見ていた
ベストテンが今週の1位をぱたぱたとめくり始め、WINKの愛がとまらないが表示される
スタジオアルタからの中継が入り、WINKがでてきた
アルタ?すぐそこじゃないかと、すぐそばにWINKがいる
アルタの方角とテレビとをきょろきょろ往復しながら
ここが東京かと一人で興奮し
絶対受かってやると拳を固めたところに、外線電話が鳴る
「よー、気合、はいっとるか」と隊長の声
そういえばやつも新宿のホテル
「あたりまえや、テレビ見とったか?、WINKがこのへんにおるど」とやつの興味をひいてみると
「そんなことはどうでもええねん」と途端にテンションを下げてきた
「非常事態や」とさらに深刻
「おまえんとこのテレビ、有料チャンネルついとるか」
「もうチェックしとるわ、最初は30秒ぐらいただで見れてんけど
どんどん短かなって、もう金払わんと見れへんようなった
おまえもどうせ見れんようなったんやろ
そんなに見たいんやったら、金払え」
「おれなぁ、不覚にも受験生パックちゅうのにだまされてやなぁ
このホテル、有料チャンネルの線、わざわざ抜いとんねん
ピンチや、助けてくれ」
「どないせぇーちゅーねん」
「今から行くわ」と電話は切れた
10分ほどでノックがして
「よー、おまえは命の恩人やー」とたいそうな再開
「悪いけど15分でええから、一人にしてくれへんか」と追い出されてガチャリと鍵が下りた
ぼくはロビーで15分時間をつぶし、自分の部屋にノックする
何事も無かったかのように顔を出す隊長は
「おまえは命の恩人やー」と今度は手を差し出してくる
「手、洗ったんかい」
「細かいこと気にするな、じゃー健闘を祈る、明日また来るわ」
1日目の試験が終わって、やってきた隊長はかなりへこんでいて
ぼくの方はなんとなくうまくいったようなつもりでいて
「すっきりしていけや」と励まして
15分、きっちり済ませて、少しばかり元気を取り戻して帰っていった
ぼくの青春時代はこんな友情で結ばれていた
「なにの回数と合格率は正比例し、なにの回数と合格率は反比例する」
隊長の持論は、東大現役合格で証明したつもりでいる
ぼくはあと何回だったのだろうと、浪人生