くそ生意気な女子、Mちゃんは
ぼくの家の隣に住んでいた
Mちゃんの家はばかでかく、あそこはお金持ちよと母親は言っていた
金持ちがなんなのかよくわからなくも
そのばかでかいうちに遊びに行くと少し緊張した
車もばかでかく、鏡のようにぼくの姿を映し出すボンネットは
傷でもつけようもんなら、殺されると思うほど
そこのおやじは恐ろしく、できるなら会うことは避けたかったけれども
友達とつるんで遠くから「はげ」と叫んで、逃げた
そんなスリルもぼくたちには必要で
Mちゃんの家は、ぼくには、少し空気の違った家庭に見えて
それでも、同じ年頃の子供を持つ近所づきあいを
大人と一緒に参加して、少し鼻につく相手ともそれなりの子供社会をつくる
Mちゃんは初めて飛行機に乗ったことを自慢げに話す
「飛行機の下は一面、雲があって、窓を開けて雲の上に降りて、ふわふわと遊んだのよ」
ぼくも飛行機に乗ったことがある
窓が開かないことを当然のように受け入れて、窓に張り付いて雲を眺めていた
「飛行機の窓はあけられへんわ」と、ぼくは勝ち誇り
ここぞとばかりにMちゃんをたたきのめすわりに
雲の上は歩けるものなんだと知らされる
その頃よく流れていた水戸黄門の歌は
人生、楽ありゃ雲あるさ
と勝手な思い込み
Mちゃんが雲の上で楽しそうに遊ぶ姿が浮かぶ
人生とは雲の上でふわふわと
哲学を学んだようだ